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HARUSAME blog

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転ばぬ先の字幕翻訳講座~入門編

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つい先日、「字幕ネタはしばらくお休みします」と宣言したばかりですが、実務未経験者を対象としたトライアルを実施することになり、慌ててこの記事を書いています。

初めて字幕翻訳に挑戦する人がたどるであろう道と、その原因分析をここに書いておきますので、提出前のチェックなどにお役立てください。

 

【前提】

字幕翻訳には2つの大きな特徴があります。

1)翻訳する素材が映像であること

2)読み手の負担を軽減するため、コンパクトにまとめる必要があること

  (一般的には1秒につき4.0~4.5文字程度。)

 

たったこれだけのことですが、日本語ネイティブの語感を崩壊させるすさまじい破壊力をもっているようです。しかもタチの悪いことに、人に言われるまで気づきにくい。驚かれるかもしれませんが、ここに挙げるのは、どれも歴とした日本人が書いたものです。本当にこういうことが起こり得るのだということを認識して、同じところでつまづかないようご注意ください。

 

ハコ切り

 

映像を見ながらナレーションやセリフを1枚の字幕ごとに切っていく作業を「ハコ切り」と言います。「1枚のハコに収める字幕は2行まで」と言うと、前から順に2行ずつハコを切ってくる人がいます。

 ①25年は長いですね
  その中でも

 ②重要な場面がありました
  失踪から半年後

 ③2人の証人が
  警察で犯人を確認したのに

 ④警察は何も発見できず
  他の手がかりも

 ⑤打ち切りになった
  今も分からないのですが

 ⑥本当にその男が誘拐したのか
  なぜこうなったのですか

 

こうして全て並べてみると、まあなんとなく意味は分かりますが、実際には画面に2行ずつしか表示されません。そう考えると、読み手にやさしくない字幕であることが分かると思います。

まず、前の文のお尻と、後ろの文の頭が1つのハコに入っている点が問題です。また、本人が意味を意識して言葉を組み立てていないため、何を言わんとしているのかよく分かりません。

まずは文末、意味の切れ目、映像の切り替え部分等でハコを切る、そして訳文を書き込んだら再度チェックしてください。

 

次の例文も、字幕にとって不利な分け方をしています。分かりますか?

 

 ①この母親の名前は張雪霞

 ②貴州省都匀市出身
  息子の名は 智智

 ③3歳と4カ月で失踪し
  捜索番組に出演した

 ④メディアの力によって
  長年の捜索を終える思いだ

 

②の前半の主語は母親、後半の主語は息子です。

③の前半の主語は息子、後半の主語は母親です。

日本語は主語を読み手に悟らせることができる言語ですので、その特徴を利用して主語を省略した点は間違ってはいません。

が、隠れ主語をきちんと揃えないと誤読や混乱を招きます。この例文では、特に③の主語が迷子になっているのが気になりますね。主語を揃えるとだいぶすっきりするのではないでしょうか。

 

 ①この母親の名前は張雪霞

  貴州省都匀市出身

 ③息子の名は 智智

  3歳と4カ月で失踪した

 ③彼女は生き別れた息子を捜すため

  テレビ番組に出演した

 

文法の特徴を踏まえて日本語化する

 

もう少し微妙な例も見てみましょうか。

こちらはどうでしょう。

 

 ①父の年齢で
  これ以上心配はかけたくない

 

慣用的にこのような言い方はよくあります。ですが、一瞬で読ませるならもう少し表現を工夫してみてもよいのではないでしょうか。

 

 ①高齢の父に

  これ以上心配をかけたくない

 

主語が「私」であることがより明確になります。

この文は誤文かどうかと言えば微妙なところですが、「主語迷子型」であると同時に、「で」に多くを語らせようとしすぎて意味が不明確という点でも典型的で、何だか気持ちが悪い文です。

 

ずいぶん細かい話だと思われるかもしれませんが、音声で流れてくる大量の情報を簡潔にまとめるためには、両言語の特徴を踏まえて構造を組み替える作業を避けては通れません。

中国語の基本的なパターンは主術文の繰り返しです。対して日本語は連体修飾を多用し、極端な文学作品などでは主語だけで3行に及ぶこともあります。動詞と目的語の位置が逆ということもあり、中国語の語順をなぞるようにして訳すと倒置文や短文の多用となり、滑らかに読み進めることができません。

  
 ①黄恵康は糖尿病だ

 ②民宿の主人の王錦霞は
  食事の塩分を控える

 

こんな感じです。これだと①と②の関係性がよく分かりませんね。

原文の意味を汲むと、全体の主語は「王錦霞」です。これを前にもってきて、さらに黄恵康に関する情報を連体修飾節化すると、ぐっと日本語らしく、関係も明確なります。

 ①民宿の主人 王錦霞は

 ②糖尿病を患う黄恵康のために

  減塩食を提供する

 

連体修飾は非常に便利ですが万能ではありません。特に以下の場合は、慎重になったほうがよいと思います。

1)連体修飾節が長すぎ、それを受ける名詞が同じハコに入らない場合

2)短文でメリハリをつけたい場合

3)被修飾語が集団の場合

       (連体修飾化によって対象の範囲が変わることがあります)

 

 

情報を整理して振り分ける

 

字幕翻訳は「要旨をかいつまんで訳す」とか「言葉を訳すのではなく、心を訳す」と言われます。そう聞くと、心で感じ取って印象に残ったことを自分語で書けばいいと考える人がいるようです。

その結果、キーワードや伏線をことごとく削り落としてしまったり、勝手な解釈で創作してしまったり、同じ内容の反復に貴重な文字数を費やしてしまったり、格調高い文章の雰囲気を表現できなかったりといった問題が生じます。

ですので、私はロジカルに分析して地道に適訳を探すことが重要だと思っています。なぜAを捨ててBを訳出したのか、なぜ上位概念に言い換えたのか、なぜ正体発覚前後で呼び方を変えたのか、なぜ横文字の訳語があるのにあえて漢字+ルビを選択したのか、なぜ原文にない説明を加えたのか、きちんと根拠を求め確信をもってやらないと危険です。

 

では、情報をハコに詰め込みすぎるとこうなります、という文例から。

 

 ①二人とも体が悪く今介護負担は

  全て一人娘の遅燕萍にのしかかる

 

   ①戸にご注目 このような引き戸は

  場所をとらず障害を減らします

 

   ①障害老人の多くは糖尿病で目が

  悪いなど慢性疾患があるので

 

   ①手洗い場の専用手すりは細かい

  所まで老人に配慮されている

 

   ①一日の体験で遅太源と妻張玉媛は

  ここの利用者になりそうだ

 

詰め込めばいいってもんじゃないんだから…と言いたくなりますが、書いている人は必死です。気持ちは分かります。

 

 

では、字幕にはなぜ文字数制限があるのでしょうか?

冒頭で書いた「字幕翻訳の2つの特徴」のうちの1つが、その答えです。

 

 

 

そう、「読み手の負担を軽減するため、コンパクトにまとめる必要がある」

のでしたよね。

  

 

この字幕で、読み手の負担を軽減できるだろうか?

翻訳ソフトではなく人間が訳す意味って何だろう?

 

 

ちゃんと考えながら自分の原稿をチェックしていますか?

文字数制限をクリアすることが目的になってはいませんか? 

 

 

 

「そんなこと言われても、文字数制限厳しいし、情報量は多いし、

どうしろというんだ」と声が聞こえてきそうです。

 

 

 

 

それを考えるのが字幕を作成する作業そのものなのですが、特別にヒントを。

当方から発注する作品に限定して言うなら、

 

1.重複する説明をどのハコで訳出し、どのハコでは省くか、計画的に振り分ける

2.不要な情報を省く

3.言い換えを検討する

 これらの対策が比較的通用します。

 

注意点は、1つのハコの中だけで情報の取捨選択を判断しないことです。

作品をラストまで読み込み、ナレーションやインタビューだけでなく、テロップや横断幕などの情報を拾い、言葉の用法や背景をリサーチした上で、セリフの真意やキーワードをつかみ、確信をもって編集する。

 

…ここまでが下ごしらえです。

 

 

こうして表現するためのゆとりを確保したら、「原語を聴き取ることができない日本人」が読み手であることを念頭において、推敲を重ねていきます。下ごしらえをきちんとしておくと、日本人向けにちょっとした説明を補ったり、差別的表現を言い換えることも可能となります。

 

翻訳者としての腕の見せ所はここからです。しっかり吟味して、気持ちよく読める字幕を仕上げてください。

下ごしらえの段階でつまづかないように。

頑張ってくださいね!

 

 

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